テレビや新聞、ネットニュースを見ていると、「偏向報道ではないか」という批判を目にすることがあります。
しかし、何をもって偏向報道と考えるのかは簡単ではありません。
自分と異なる意見を報じているからといって、それだけで偏向報道とはいえません。また、事実関係を誤った「誤報」や、存在しない事実を作る「捏造」とも意味が異なります。
偏向報道と受け止められやすいのは、発言の一部分だけを取り上げたり、一方の立場を大きく扱ったり、ニュースの選び方やテロップなどによって特定の印象が強く伝わったりするケースです。
この記事では、偏向報道と受け止められやすい実例をパターン別に整理し、実際にテレビ番組で編集方法などが問題になった事例も紹介します。
偏向報道とは
偏向報道とは、一般に、特定の立場や考え方に偏っていると受け止められる報道を指す言葉です。
ただし、「偏向報道」という言葉だけで、報道の問題をすべて説明できるわけではありません。
偏向報道に明確な一つの基準があるわけではない
ニュースを作る際には、限られた時間や紙面の中で、
- 何を報道するか
- 誰に取材するか
- どの発言を使うか
- どの映像を使うか
- どの順番で伝えるか
といった編集が必ず行われます。
そのため、情報が選択されているという事実だけで偏向報道になるわけではありません。
一方で、その選択や編集が一方向に偏り、出来事の全体像とは異なる印象を与えるようになれば、「偏向しているのではないか」と受け止められることがあります。
偏向報道と誤報・捏造は違う
偏向報道と混同されやすいものとして、誤報や捏造があります。
誤報は、事実と異なる内容を報道することです。捏造は、存在しない事実や発言などを意図的に作り出すことを指します。
これに対し偏向報道では、個々の事実自体は正しくても、どの事実を選ぶか、どの部分を強調するかによって全体の印象が変わるケースがあります。
この違いを理解しておくことが重要です。
偏向報道と受け止められやすい実例
実際には、どのような報道が「偏っている」と感じられやすいのでしょうか。
代表的なパターンを見てみます。
発言の一部分だけを取り上げる
たとえば、ある人物が次のように発言したとします。
「この政策には賛成です。ただし、費用負担については改善が必要だと思います」
このうち、
「この政策には賛成です」
という部分だけを放送すれば、その人物が政策を全面的に支持しているように見える可能性があります。
反対に、
「費用負担については改善が必要です」
という部分だけを取り上げれば、政策に否定的な人物のようにも見えます。
ニュース番組では放送時間に限りがあるため、発言を短く編集すること自体は避けられません。
重要なのは、編集した結果、元の発言の趣旨が変わっていないかという点です。
一方の意見だけを大きく取り上げる
意見が分かれている問題について、一方の立場だけを長時間紹介すれば、視聴者が受ける印象も変わります。
たとえば賛成派と反対派が存在する問題について、
賛成する専門家を3人紹介し、反対する専門家は短いコメントだけにする。
あるいは、その逆の構成にする。
これだけでも番組全体の印象は大きく異なります。
もっとも、政治的公平性は単純に「賛成50%、反対50%の放送時間にする」という意味ではありません。
放送法上の政治的公平性については、「放送法と政治的公平性の関係」で詳しく整理しています。
ニュースによって報道時間に大きな差がある
報道番組では、毎日膨大な数の出来事からニュースを選ばなければなりません。
そのため、
「このニュースを30分間報じたのに、別のニュースは1分しか報じなかった」
というだけで偏向報道と判断することはできません。
一方で、同じテーマについて特定の立場に有利な出来事は大きく扱い、不利な出来事はほとんど扱わない状態が継続すれば、報道姿勢について疑問を持たれることがあります。
何を報道し、何を報道しないのかという問題は、「報道しない自由」とも関係します。
ニュースの見せ方によって印象が変わる実例
テレビでは、内容だけでなく「どのように見せるか」も視聴者の受け止め方に影響します。
テロップによって印象が変わる
たとえば同じ出来事について、
「批判が殺到」
と表示する場合と、
「一部から批判の声」
と表示する場合では、受ける印象が異なります。
実際にどの程度の批判が存在するのかを示さず、強い言葉だけを使用すれば、出来事を実態以上に大きく見せる可能性があります。
ニュースを見る際には、テロップの表現だけでなく、その根拠となる事実にも注目する必要があります。
映像の選び方で印象が変わる
テレビでは、どの映像を使用するかも重要です。
同じ人物でも、
笑っている場面、怒っている場面、困った表情をしている場面では、視聴者が受ける印象が大きく変わります。
数十分間の記者会見の中から数秒だけを切り取って使用する場合、その場面が会見全体を代表しているのかを見る必要があります。
ナレーションによって意味づけが変わる
同じ映像であっても、
「期待が高まっています」
と説明するのか、
「懸念が広がっています」
と説明するのかによって、ニュースの印象は変わります。
映像という「事実」と、ナレーションによる「評価や意味づけ」を分けて見ることが大切です。
街頭インタビューでも印象は変わる
テレビ番組でよく使われる街頭インタビューも、編集方法によって印象が変わる可能性があります。
何人に聞いたのかで意味が変わる
街頭で5人に話を聞き、そのうち4人が同じ意見だったとしても、それだけで「国民の大多数が同じ意見」とはいえません。
場所や時間帯、年齢層、質問の仕方によって結果は変わります。
街頭インタビューは世論調査とは異なるため、あくまで「取材した人の声」として見る必要があります。
どの回答を放送するかは編集側が選んでいる
仮に50人に取材しても、実際に番組で使われるのが5人であれば、その5人を誰にするかによって番組の印象は変わります。
実際にBPOは2025年、日本テレビの『月曜から夜ふかし』の街頭インタビューについて、恣意的な編集によって事実に基づかない内容を放送したとして、放送倫理違反があったと判断しました。BPOは、取材対象者の発言を編集する過程やチェック体制なども検証しています。
これは「偏向報道」と認定された事例ではありませんが、編集によって元の発言とは異なる印象や意味が生まれる危険性を考えるうえで、参考になる事例です。政治に関する報道でも、取材対象者の選び方次第で印象が変わることは多いといえます。
数字やグラフでも印象は変わる
数字は客観的に見えますが、見せ方によって印象が変わることがあります。
グラフの目盛りによって差が大きく見える
たとえば支持率が51%と49%だった場合、本来の差は2ポイントです。
しかし、グラフの表示範囲を48%から52%にすれば、大きな差があるように見せることもできます。
数字そのものが間違っていなくても、グラフの作り方によって受ける印象が変わる代表的な例です。
比較する期間によって結論が変わる
「前年より増えた」
という数字でも、10年前と比べれば減っている場合があります。
逆に、「10年間で減少」と説明されていても、直近数年間では増加しているかもしれません。
数字を見るときは、どの期間、どの母数、どの比較対象を使っているのかを確認することが重要です。
見出しだけでもニュースの印象は変わる
新聞やネットニュースでは、見出しが大きな役割を持っています。
本文より強い表現を見出しに使う
本文では、
「可能性がある」
と慎重に書かれていても、タイトルが、
「○○へ」
「○○確実」
などと強い表現になれば、見出しだけを読んだ人には異なる情報として伝わる可能性があります。
SNSでは見出しだけが拡散されやすい
現在ではニュース記事そのものを読まず、SNSに表示されたタイトルや画像だけを見る人も少なくありません。
そのため、見出しやサムネイルの表現がニュースの受け止め方に与える影響は大きくなっています。
内容を判断するときは、見出しだけでなく本文や元資料まで確認することが大切です。
報道しないことも偏向報道になるのか
あるニュースを報じなかったことについて、「報道しない自由だ」「偏向報道だ」と批判されることがあります。
しかし、報道しないこと自体を直ちに偏向報道と考えることはできません。
すべての出来事を報道することはできない
テレビ番組には放送時間があり、新聞には紙面があります。
世界中で起きているすべての出来事を報道することは物理的に不可能です。
そのため、ニュース価値や社会的重要性などを考慮して、何を報じるかを選択することは報道機関の通常の編集活動です。
問題になるのは選択が継続的に一方向へ偏る場合
一方で、特定の立場に都合のよい出来事は大きく取り上げる一方、都合の悪い出来事は繰り返し扱わないという傾向が確認されれば、その編集方針について検証する余地があります。
ただし、単に「自分が重要だと思うニュースをテレビが報じなかった」という理由だけで、意図的に隠したと判断することもできません。
報道しないことの問題については、「報道しない自由とは何か」で詳しく解説しています。
実際の報道事例を見るときの注意点
「偏向報道の実例」を調べると、特定のテレビ局や新聞社を批判する情報が数多く見つかります。
その際には、いくつか注意したい点があります。
「偏向と批判された」と「問題が認定された」は違う
SNSなどで、
「この番組は偏向報道だ」
という投稿が多数あったとしても、それだけで番組に問題があったことが確定するわけではありません。
一方、BPOなどが調査し、放送倫理上の問題を指摘しているケースもあります。
たとえばBPOは、テレビ東京の『激録・警察密着24時!!』について、放送時点で逮捕された4人のうち3人が不起訴になっていたことに触れず、事後に撮影された映像を「密着」取材のように扱った点などを問題視し、「放送倫理上問題あり」と判断しています。
これも「偏向報道」と認定したものではありませんが、何を伝え、何を伝えないかによって視聴者が受け取る事実関係が変わり得る事例として参考になります。
一次情報を確認する
報道内容に疑問を感じたときは、可能であれば、
- 元の記者会見
- 発言全文
- 公的資料
- 統計の原資料
- BPOの決定
- 放送局側の説明
などを確認しましょう。
SNSで拡散されている短い動画も、それ自体が元映像から切り取られている可能性があります。
テレビ報道を検証する際にも、テレビ批判の情報をそのまま信じるのではなく、元の情報まで確認する姿勢が重要です。
偏向報道と放送法4条の関係
テレビ報道について「偏向している」と批判される際、放送法4条が取り上げられることがあります。
放送法4条では、放送番組の編集にあたり、「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」などが定められています。
偏向していると感じるだけで放送法違反とは限らない
視聴者が「このニュースは偏っている」と感じたとしても、その感覚だけで直ちに放送法違反と判断できるわけではありません。
政治的公平性をどのように判断するかは、番組編集の自由との関係も含めて慎重に考える必要があります。
放送法4条については「放送法4条とは何か」、政治的公平性については「放送法と政治的公平性の関係」で詳しく解説しています。
偏向報道を見分けるためのポイント
ニュースを見る際には、「偏向しているか、していないか」をすぐに決めるより、情報がどのように作られているかを見ることが重要です。
まず確認したいのは、元の発言や一次情報です。
発言の一部だけが使われていないか、元の統計とグラフの印象が一致しているかを確認します。
次に、複数のメディアを比較します。
同じニュースでも、テレビ局、新聞、ネットメディアによって注目する部分が異なります。複数の報道を比較すると、一つの報道だけでは見えなかった情報が分かることがあります。
さらに、「事実」と「評価」を分けて見ることも大切です。
何が起きたのかという事実と、それをどう評価するのかという意見は同じではありません。
テロップや見出し、コメンテーターの発言だけで判断せず、その根拠となる情報まで確認することで、ニュースをより冷静に見ることができます。
偏向報道についてよくある疑問
偏向報道と誤報は同じですか?
同じではありません。
誤報は事実と異なる内容を報じることです。偏向報道と呼ばれるものでは、事実自体は間違っていなくても、情報の選択や強調の仕方が偏っていると批判される場合があります。
偏向報道は放送法違反ですか?
「偏向している」と感じられたことだけで直ちに放送法違反になるわけではありません。
テレビ放送については放送法4条に政治的公平性や事実をまげない報道などが定められていますが、具体的な判断には放送内容や状況を確認する必要があります。
テレビ局によってニュース内容が違うのはなぜですか?
ニュースの選択や編集方針、番組の放送時間、取材した内容などが異なるためです。
報道内容に違いがあること自体は不自然ではありません。
重要なのは、その違いによって事実関係そのものが歪められていないか、多角的な情報が提供されているかを見ることです。
まとめ
偏向報道の実例を考えるときは、特定のテレビ局や新聞社を単純に「偏向している」と決めつけるのではなく、どのような情報の選択や編集によってニュースの印象が変わるのかを見ることが重要です。
発言の切り取り、一方の意見の強調、ニュースの選択、テロップ、映像、街頭インタビュー、グラフ、見出しなど、ニュースにはさまざまな編集要素があります。
編集そのものは報道に必要ですが、その結果として元の事実や発言とは異なる印象を与えていないかは確認する必要があります。
また、報道に疑問を感じた場合には、SNS上の批判だけで判断するのではなく、一次情報やBPOなどの資料、複数のメディアを確認することが大切です。
「偏向報道かどうか」を誰かに決めてもらうのではなく、報道がどのように作られているのかを理解し、自分で情報を比較して判断することが、ニュースと向き合ううえで重要です。